月面着陸から50年、今後50年の宇宙開発はどうなるのか?The next 50 years in space

宇宙探索の新たな時代が始動A new age of space exploration is beginning

宇宙探索の発展には、宇宙法の整備と軍縮のための枠組みが必要

2019/07/20

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50年前、米宇宙飛行士ニール・アームストロングが月面に足を踏み降ろした瞬間は、世界中で畏怖と誇り、驚きの念を呼び起こした。本エコノミスト紙は当時、「人類は今日この日から、その判断力が欲しその創意工夫が企図する宇宙のいかなる場所にも、(中略)近い将来においては人類がいまや行こうとする惑星へ確実に行くことが出来る」と論じた。だが、そうではなかった。あの月面着陸は我々の思いからはかけ離れたものだった。月面への着陸それ自体が目的ではなく、米国の突出した能力を伝える手段として達成された1つの目標に過ぎなかった。この点が明らかになった以上、目標を修正する必要はなくなった。これまで地球の周回軌道まで行った人の数はたった571人だけである。人類は1972年のアポロ宇宙船の最終飛行以降、オハイオ州デモインからイリノイ州シカゴまでの距離より遠くにまで、地球から離れることはなくなった[訳注:デモインからシカゴまでおよそ530km。国際宇宙ステーションISSは地上高度400km、スペースシャトルの軌道高度は185~578km]。 

 

今後50年はかなり異なる様子となるだろう。コスト低下や、新たなテクノロジー、中国やインドの宇宙開発への野心、起業家らの新しい世代は、宇宙開発の果敢な時代を期待させる。この新たな時代には、富裕層を対象とした「宇宙観光」や全ての人たちを対象とした意思伝達ネットワークの向上がほぼ確実となり、長期的には鉱物探査やヒトやモノの大量輸送さえも可能となるかもしれない。宇宙は地球の延長のようになるだろう。それは、各国政府のためだけでなく、企業や個人の舞台でもある。だが、こうした期待が実現されるには、世界は、平時といよいよ戦時になった場合のそれぞれに適用される、宇宙空間を規律するための法整備を進める必要がある。

 

宇宙開発はこれまで、地上の活動―主に放送や情報伝達のための衛星通信―をしやすくすることに主眼をおいてきた。だが、今や二つのことが変化しつつある。一つは、地政学的リスクが、地球低軌道[訳注:地球表面から高度2,000km以下]という地球に近接した軌道の外に人間を送り出す新たな動きを加速させている。中国は2035年までに中国人宇宙飛行士の月面着陸を計画している。ドナルド・トランプ米大統領政権は2024年までに有人月探査を再開する計画を明らかにした。宇宙開発におけるコスト低減は、各国の技術力の誇示をより安価なものにした。現在の貨幣価値に換算して数千億ドル(数十兆円)かかったアポロ計画だったが、今日では、月へのフライトチケット代は数百億ドル(数兆円)である。

 

もう一つは、民間部門による宇宙開発が成熟期を迎えていることだ。1958年から2009年にかけて、宇宙開発費のほとんどは、NASA(アメリカ航空宇宙局)や米国防総省を中心とした各国政府機関よって使われた。民間による宇宙開発投資は過去10年で、年間に平均20億ドル(約2,154億円)―民間によるこれまでの宇宙開発投資総額の15%に相当―に達し、さらに増加する見込みである。イーロン・マスク氏率いる民間宇宙ベンチャー、スペースX社は昨年、21回の人工衛星打ち上げに成功し、同社の企業価値は現在330億ドル(約3兆5,500億円)となった。アマゾン社の創業者ジェフ・ベゾス氏は、毎年10億ドル(1,070億円)相当の同社の株を売却し、宇宙ベンチャーのブルー・オリジン社に投入している。英資産家リチャード・ブランソン氏が率いる宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックは、年内に上場予定であり、新会社の企業価値を15億ドル(約1,630億円)と見積もっている。資金やアイディアはもとより、民間部門は徹底した低コスト化を提供する。NASAによれば、スペースX社のロケットであるファルコン9をNASAが開発する場合の費用は40億ドル(約4,330億円)に上るそうだが、スペースXによるファルコン9の実際の開発費はその10分の1で済んだ。

 

2種の宇宙ビジネスモデルが存在しており、完成が手の届く範囲にある。一つは、低軌道に複数の通信衛星を打ち上げて、それを管理する大型ビジネス[訳注:従来の静止軌道での衛星通信とは異なり、低軌道に安価な小型衛星を複数打ち上げ互いの衛星をネットワーク化するコンステレーション構想]である。そしてもう一つは、富裕層を対象としたニッチな宇宙ツアーである。来年には、ヴァージン・ギャラクティック社とブルー・オリジン社は、地球の周回軌道内[訳注:両社ともに地球の周回軌道まで行くのではなく、海抜高度62マイル(約100km)にある「カーマン・ライン」と呼ばれる、宇宙空間と大気圏を分ける仮想の境界線を越えることを目指している]の宇宙探索の旅を提供することがほぼ確実となる。乗客は無重力状態のスリルを体験し、黒い宇宙空間を背景に地球の周囲を目にすることができる。ヴァージン・ギャラクティック社は2022年までに年間1000人ほどの裕福な冒険者らの宇宙旅行を実施するだろうと主張している。スペースX社はファルコンロケットよりも大型で大きく性能が向上し、繰り返し再使用できる「スターシップ」を開発中である。ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する前澤友作氏は、スターシップによる月周回飛行の頭金を払った。打ち上げは早くとも2023年の予定で、前澤氏はアーティスト仲間らと共に旅立つとしている。

 

スイスの大手金融機関UBS銀行によると、こうした可能性によって、宇宙ビジネスの年間市場規模は2030年までに倍増し8,000億ドル(約86兆1,700億円)になるという。更なる将来、宇宙開発によって人類の暮らし方が作り変えられるかもしれない。マスク氏は人類の火星への移住を計画している。世界一の大金持ちであるベゾス氏は、2069年のアームストロング氏月面着陸100周年を迎える前に、数百万人が宇宙ステーションで暮らせるようにしたいとしている。

 

地球が気候変動や経済成長の鈍化、問題をはらんだ政治に関する暗いニュースに見舞われている時に、宇宙空間は楽観的になれる驚くべき理由を提供してくれるかもしれない。だが、宇宙は万能薬でも避難場所でもない。宇宙が示す期待を実現するには、「大きな問題」を解決し、「危険なリスク」を回避せねばならない。大きな問題とは、宇宙空間の法整備を進めることである。1967年に国連で採択された「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約(通称:宇宙条約)」は、宇宙空間を「全人類の領域」とし、いずれの国家も領有権を主張することはできない、と規定している。だが、これには解釈に大きな余地を残している。米国は、民間企業であれば宇宙資源の開発が可能であるとし、国際法の曖昧さを逆手に取っている。

 

例えば、月面探査隊員の生命維持手段として月の両極付近にある氷を使用するのに最も資格のある者は誰であろうか? 火星への移住者らは、火星の環境に対して自分たちの思い通りに手を加えることが認められるべきか?衛星同士の衝突に対して誰が責任を負うのか? 宇宙空間はすでに込み合っている。2,000以上の衛星が軌道上にあり、NASAは、時速2万7,000キロ以上の速度で地球を周回する50万個以上の宇宙ゴミのかけらを追跡している。

 

こうした不透明さは、「宇宙空間における武力の行使」という危険なリスクを増大させる。米国の地上における比類なき武力の投射能力は、無数に展開する人工衛星に依存している。他国は、このことを認識しており、米国自身がやってきたと同じように、衛星攻撃兵器を製造してきた。それに、宇宙空間における軍事活動には実証済みのプロトコールや交戦規則がない。

 

米国や中国、インドは現在、自国の破壊能力を急激に増強させている。レーザー照射による軍事衛星の偵察カメラの破壊や、軍事衛星から地球に発信される電波信号への妨害(ジャミング)、あるいは、衛星を撃墜することさえする(その結果、衛星の破片が宇宙空間に散らばってしまう)。また、これらの国々は、自国軍を宇宙空間に向かわせている。トランプ氏は1947年の米空軍創設以来初の軍種となる「宇宙軍」の創設を提唱した。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は7月14日のフランス革命記念日の前夜に、新たに宇宙軍司令部を創設すると発表した。

 

地上で行われているように、天上でも行われますように

宇宙を、人類が自らの足かせをかなぐり捨てて自らの生きる目的を再発見できる自由なフロンティアである「あこがれの大西部」として売り込もうとすることは誤りだ。宇宙にかかる期待を実現するには、それを統べるルールが必要である。世界が鉄鋼や大豆にかかる地上の貿易ルールに合意できない時に、それは過大な要求と思えるかもしれない。だが、そうしたルールがなければ、地球外にあるすべての可能性は、実現されるまでに少なくともさらなる50年の歳月を必要とするだろう。また、最悪の場合、宇宙は地球の問題をさらに拡大させてしまう恐れがある。

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