月刊正論:8月号から  
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産経新聞社「月刊正論」からEISへの提供コラムです。
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  内閣府の露骨な皇室隠し(P38〜39) 
 
高崎経済大学教授●八木秀次 


 


 少し前、秋にもゴールデンウィークを設けようとして「体育の日」や「勤労感謝の日」を11月3日の「文化の日」前後に移動させようとの与党内の動きがあったが、保守系の議員諸氏がストップを掛けて沙汰止みになったということがあった。祝日は単なる休日ではなく、それぞれ謂れがあるのだから安易な移動は反対、というのがその理由だった。大いに結構なことだが、問題はそれで終わりというわけにはいかない。祝日の移動がいとも簡単に構想される背景には祝日の意義が分からなくなっている、いや、分からなくしようという動きがあるからだ。

 祝日には「国民の祝日に関する法律」(昭和23年7月20日)に定められたそれぞれの意味があるが、ここで問題にしたいのは、内閣府大臣官房管理室が今年3月に発行した『国民の祝日』と題した全16頁のパンフレットの内容についてである。そこには祝日それぞれについて1頁を当ててその説明がされている。

 例えば、春分の日、秋分の日はそれぞれ「自然をたたえ、生物をいつくしむ」「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ」という祝日法に定められた意義をそのまま掲げはするものの、その意味については一切触れず、単に今後の春分の日、秋分の日が何月何日になるのかを平成42年まで一覧表で示している。しかし、これでは春分・秋分は昼間の時間と夜の時間が同じになる日だから休日であるというわけの分からないことになってしまう。勤労感謝の日は「勤労をたっとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう」という祝日法の意義を掲げるだけで、この日が宮中の新嘗祭に由来することへの言及が一切ない。

 結論を先に述べておこう。実はこのパンフ、「国民の祝日」の中で皇室に関わる祝日について、その意義にまったく触れないという露骨な皇室隠しをしている代物なのだ。

 先に見た春分の日・秋分の日も、もとは宮中での春季皇霊祭・秋季皇霊祭が行われる日であり、それが民間に下りて春秋のお彼岸になった。祝日法にある「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ」はそのことを言っている。

 文化の日についても、戦前は「明治節」であったが、「この日を文化の日としたのは、立法の精神から言えば、日本国憲法が公布された日であるからということになります」とし、「祝日法」にいう「自由と平和を愛し、文化をすすめる」という意義も日本国憲法が戦争放棄を宣言したことをもって「これは日本国民にとって忘れ難い日であるとともに、国際的にも文化的意義を持つ重要な日です」と説明する。11月3日は第2の憲法記念日というわけだ。確かに祝日法制定の経緯の中で、この日を憲法記念日にしようという動きがあったのは事実だが、憲法記念日は5月3日がある。この日を文化の日としたのは、文明開化を推進された明治天皇と明治の先人たちを偲ぶという意味があるはずなのに、そのことには一切触れない。

 現在は7月の第3月曜日となっている海の日にしても、もともと7月20日が海の日とされてきたことには言及しているものの、ではなぜ7月20日なのかについては触れようとしない。明治9年、前年に就航したイギリス製の汽船「明治丸」に明治天皇(当時満23歳)が東北・北海道ご巡幸の帰路に函館から乗船され、7月20日夜、横浜港に無事帰着された。途中、しけに遭い、ほとんどの乗客が船酔いしたのに、明治天皇は泰然とされ、そのことが当時まだ汽船による航行に不安を感じていた一般国民がその安全性と信頼を寄せる契機となり、以後、海運と船旅への理解と利用が急増することとなった。それを記念して7月20日を海の日とすることになったのだ。

 以上のように、内閣府のパンフは皇室に関わる祝日の意義を意図的にぼかしている。如何にも不自然な記述である。

 祝日はどこの国でもホリデー(聖なる日)と位置づけられたハレの日である。その国を構成する民族の固有の゛物語″を象徴する日である。のんべんだらりとした日常にアクセントを付け、「国民」であることを自覚させる日である。それに当たって我が国では皇室の存在が欠かせないが、それを内閣府は隠そうというのである。関係者は事情を説明すべきだろう。


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