月刊正論:8月号から  
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産経新聞社「月刊正論」からEISへの提供コラムです。
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  人道的配慮が招く危険(P42〜43) 
 
評論家●潮 匡人 


 


 6月19日からジュネーブで開かれる予定の特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)政府専門家会合で、日本政府はクラスター爆弾禁止条約制定に「基本的に賛成」と表明する。従来、賛否表明を留保していた日本政府は、なぜ、方針転換したのだろうか。

 クラスター爆弾は、対人対戦車用の空対地爆弾であり、一定の高度で親爆弾が開き、内包された多数の子爆弾が飛散して目標を破壊する。米軍がベトナム戦争から使い始め、湾岸戦争、コソボ紛争、アフガン攻撃、イラク戦争、レバノン攻撃などで使われた。

 容器に爆薬を装填し信管を取り付け、爆風と破片で目標を破壊殺傷するのが爆弾である。人間が製造した兵器である以上、失敗に終わることもある。空対地爆弾も、落下の速度や場所により、信管に十分な衝撃が加わらず不発弾となる可能性がある。特にクラスター爆弾は、大量の小爆弾を散布する。その不発率は「5〜20%」とも言われる。たとえ不発率が低いとしても、子爆弾の総数が多いため、不発弾の総数は比例して増えてしまう。

 不発弾は、いつ爆発するか予測できない上、無辜の民間人を殺傷する危険性が高い。このため「第2の地雷」とも呼ばれ、赤十字国際委員会をはじめ国際NGOやノルウェー、ペルーなどが「非人道的兵器」として全廃を求めている。

 今年2月23日、ノルウェーが呼びかけた国際会議で、2008年末までに、クラスター爆弾の使用・製造・移動・備蓄の禁止や、保有爆弾の廃棄と不発弾処理の促進、被害者支援などを定めた条約締結を目指す「オスロ宣言」が採択された。

 日本政府はどうしたか。「外務省と防衛省からそれぞれ担当者が出席をして、オスロ宣言については支持を見送った」(中根猛・外務省総合外交政策局軍縮不拡散・科学部長、衆議院外務委員会5月25日)。航空自衛隊がクラスター爆弾を保有する事実を踏まえた外交措置であろう。日本以外には、ポーランドとルーマニアが不参加の意向を示した。マスコミは「オスロ宣言を採択しない意向を示す数少ない国の1つ」などと批判したが、米英中露に加え、イスラエルなど主要国(特に生産国や保有国)は、この会議自体に参加していない。

 今後、日本政府としては、人道色が濃い「オスロ・プロセス」ではなく、より現実的な(冒頭の)CCWで議論を進め、「即時全廃ではなく代替兵器の開発まで十分な移行期間を設ける」「大量保有する米中露の参加も得て条約の実効性を確保する」方針だ。果たして、そう上手く運ぶか、議論の行方は不透明である。

「オスロ・プロセス」の進捗を受け、5月25日に、防衛省の大臣記者会見で以下の質疑が交わされた(防衛省公式サイト)。

 記者「なぜ日本政府として禁止条約をサポートする側に回らないのか」

 久間防衛相「クラスター爆弾が問題になっているのは、攻撃側がクラスター爆弾を使っているからです。守る側からすると、それに替わる良い武器が現在ありません。(中略)そこのところを他の国と同じ扱いにはできません。マスコミの方々の頭の体操もきちっとして貰わないといけません。我が国は攻撃用にクラスター爆弾を使う事は100%ありません」

 記者「自衛隊は国防上、クラスター爆弾は必要だという事ですか」

 久間防衛相「そうです。日本は海岸線が長くて、そこで着上陸侵攻の時に事前に防がないと、後は非常に守りにくいという状況があります。(中略)攻撃された時に、クラスター爆弾によって後の被害が出るのも自国民ですから、国民がどちらを選択するのか、攻撃されて蹂躙されっぱなしになるのが良いと思うのか、それを守り抜いて後でそれを処理した方が良いと思うのか、私は後者だと思います」

 私もそう思う。しかも日本は平成9年、小渕恵三外相の政治的かつ人道的判断から対人地雷の全廃を決めている。周辺地域の中で、日本国だけが、着上陸侵攻を阻止し得る防衛力を自ら著しく減少させた。加えて「第2の地雷」も全廃すれば、どうなるか。「蹂躙されっぱなしになる」のは御免蒙りたい。

 人道的配慮が、逆に非人道的な結果を招くこともある。今こそ「頭の体操」が必要だ。


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