月刊正論:7月号から  
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産経新聞社「月刊正論」からEISへの提供コラムです。
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  民法の背景に性道徳あり (P38〜39)
 
高崎経済大学教授●八木 秀次


   十数年前、私が夫婦別姓の問題を論じ始めたころ、゛家族″は保守論壇のテーマではなかった。政治家の関心も低かった。当時、何でそんなどうでもよい小さな問題に拘っているのだ、というのが大方の反応で、平成8年の初頭に政治日程に上り、問題の深刻さが分かり始めると、今度は逆に何でもっと早く問題にしてくれなかったのだ、と責められたりもした。今頃、何を言ってるんだ、と思ったものだった。アメリカでも保守派のテーマは長年、国防や歴史問題、経済・金融で、゛家族″という、実は国家の足元を支えているテーマは左翼に独占され、危機に瀕しているという指摘を保守派の大物論客パトリック・ブキャナンがしていたほどだ(『病むアメリカ、滅びゆく西洋』成甲書房)。

 しかし、その後、男女共同参画や性教育が問題視され、゛家族″という、いわば女子供の問題を極めて確信犯的な左翼勢力が独占し、行政が無意識にそれに従っていることが多くの人たちの目にも分かるようになった。政治家の関心も゛家族″の問題に向けられるようになった。時代の変化であり、大いに歓迎したい。

 最近、離婚後300日は前夫の子供と推定される民法772条の規定を問題視する動きがある。離婚後に前夫以外の男性との子供を妊娠したが、早産で離婚から300以内に出産したり、前夫との法律上の婚姻関係中に他の男性との間の子供を妊娠し離婚後に出産した場合には、その子供は民法上前夫の子供とされる。また、それが嫌で戸籍の届けをしない場合に無戸籍になっているという問題だ。

 この問題に対して与党のプロジェクトチームは、特例法を制定し、前夫との間で妊娠しない状況にあったことの証明とDNA鑑定などで親子関係が立証されれば再婚後の夫の子供として出生届を受理する、現在180日となっている再婚禁止期間を100日に短縮することなどを提案した。

 私もこの問題にはかねて関心もあり、何らかの問題提起をしなければ、と思っていたが、その必要はなかった。やはりこの十数年の時代の変化は顕著だと思い知らされたが、稲田朋美、西川京子の両衆議院議員はじめ自民党の国会議員、政府では長勢甚遠法務大臣が猛然と反対の意思表示をしてくれたからだ。

 稲田議員は、産経新聞4月17日付「正論」欄でも改めて述べているように、法律上の親子関係と生物学上の親子関係とは別物であること、市役所などの窓口で、DNA鑑定と証明書で父子関係を鑑定することになると、DNAが本人のものであるのか、母親が真実を述べているのかなど、鑑定試料の真偽や母親の陳述書の信用性の判断が窓口業務で行われなければならず、現実的でないことなどを理由に、与党プロジェクトチームの案に反対している。

 そして、救済は司法が行うべきであり、証明書類をつけて家庭裁判所に調停を申し立てれば、1,200円の費用とごく短期間で、親子関係不存在の確認ができるとの最高裁担当者の説明があったことを紹介している。要するに、民法改正の必要まではないというわけだ。

 長勢法務大臣は、この問題について、4月6日の記者会見で「貞操義務なり、性道徳なりという問題はみんな考えなければならない問題だ」と述べ、民法改正に反対の姿勢を示した。この発言については朝日新聞の『AERA』4月23日号が「『貞操』わめく清廉議員」とのタイトルを掲げ、「明治時代かと錯覚するような発言だった」と揶揄している。そして、法案に賛成する後藤田正純衆議院議員の「倫理や道徳は法律で決められないところでしっかり守るべき」との発言を好意的に紹介する。

 しかし、民法は、問題の772条のみならず、家族倫理や道徳を背景にしたもので、長勢法務大臣の述べていることの方が実は正しいのだ。772条は単に父親を推定するためだけの規定ではない。もしそうならDNA鑑定で十分だろう。180日の再婚禁止期間の規定を含めて、これらの背景にあるのは、前の結婚を解消するまでは妊娠すべきでないという宗教的背景を持つ婚姻倫理、すなわち貞操義務や性道徳がある。それゆえドイツでは10カ月、フランスでも300日という我が国より長期の再婚禁止期間が設けられているのだ。

 ともあれ、民法改正を阻止した各位に敬意を表したい。

 

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