月刊正論:7月号から  
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産経新聞社「月刊正論」からEISへの提供コラムです。
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  安倍首相が熱中する「24」(P42〜43)
 
評論家●潮 匡人


 

 安倍首相は「映画が趣味」らしい。「週刊文春」記事(4月19日号)によると、今年以降「犬神家の一族」「あなたを忘れない」「不都合な真実」「蒼き狼」「ドリームガールズ」を、ご夫妻で観賞されている。「ALLWAYS三丁目の夕日」も「何度も繰り返し観ている」らしい。

 記事は右作品を酷評する映画人のコメントを掲載する。最後の作品にも「一国の宰相が絶賛するような映画ですかね」と冷たいが、日本アカデミー賞・最優秀作品賞など高い評価を得ている。先日の日中首脳会談では、温家宝首相が話題に取り上げ、安倍晋三著『美しい国へ』(文春新書)は「お金で買えない価値の象徴」を描いた作品と紹介する。拙宅でも教育的効果が高いと判断し、子供達に見せた。個人的には、首相の「趣味」は悪くないと思う。

 最近、安倍夫人はこう明かした。
「主人は夜、DVDを見るのが日課みたいになっています。『24』を見終え、今は『プリズン・ブレイク』を見ています。見ている間はほかのことを忘れられますからね。主人はハラハラドキドキするような映画を、没頭して見ているような感じですね」(4月2日付産経朝刊)

 両作品とも「ハラハラドキドキする」サスペンスドラマである。当初、アメリカのFOXテレビで放送され、現在も世界各国でも視聴されている。ちなみに、FOXは愛国的な姿勢で知られる放送局である。

 正直に明かそう。私も両作品の熱烈なファンである。「プリズン・ブレイク」も捨て難いが、ここでは「24」に焦点を絞り紹介する。

 エミー賞の最優秀作品賞などに輝く人気作品で、日本でも新作のレンタル開始日には、ショップで整理券が配布される。昨年「週刊24DVDコレクション」(デアゴスティーニ・ジャパン)の販売も始まった。フジテレビが深夜枠で放送している。

 テーマはずばりテロ対策。シーズンTは、アメリカ初の黒人大統領(候補)の暗殺テロ。シーズンUは核爆弾テロ。Vは生物テロ。Wではエアフォース・ワンが撃墜され、Xでは、元大統領が暗殺される。

 もちろん、すべてフィクションである。CIA関連組織との設定で、テロと闘うCTUという組織も米国に存在しない。現実にはFBIが主担当である。しばしば偵察衛星の画像でテロリストをリアルタイムで追い詰める場面が登場するが、実際には技術上、画像の処理と伝達にタイムラグが発生する。また、しばしば登場する米国内での拷問も米連邦法で禁じられている(だから国外に収容所を設置している)。

 ――などと目くじらを立てるような話でもあるまい。所詮はドラマである。「ハラハラドキドキ」しながら楽しめばよい。とはいえ、安倍氏は現在、日本国の首相である。国家安全保障会議や諜報機関の創設にも取り組んでいる。せっかくシーズンXまで見終えたのだ。同作品には学ぶべき教訓も少なくない。

 主人公のジャック・バウアーは有名なUCLAを卒業、名門バークレーで法科修士号も得た設定である。米軍最強部隊といわれるデルタ・フォースでの勤務経験も持つ。同僚のアルメイダも元米海兵隊中尉。他方、自衛隊の特殊部隊出身者らが、その技能経験を他の政府機関で活かす余地はない。国益上、もったいない人事管理ではないだろうか。

 主人公はいつも規則を無視し、暴走する。だが同時にその活躍で米国は救われる。決まり文句は「他に選択肢はない」。憲法上の制約はあろうが、現場捜査官らに実効的な権限をあらかじめ委譲する法制度はきわめて効果的である。

 ちなみに主人公は中国政府に身柄を拘束され拷問される。アメリカ人の対中観を窺わせるストーリーである。作品上からは「友好という言葉を超えた戦略的互恵関係」(安倍首相メルマガ)を築く相手には到底、見えない。

「プリズン・ブレイク」はシーズンUがレンタルを開始し、「24」もシーズンYが米国で放送中だ。首相の「日課」は当分続きそうである。

 蛇足ながら、「ザ・グリッド」を推奨する。実在の英米政府機関によるテロ対策を描いた一級作品である。完結しており、首相の時間を必要以上に割くこともない。「ハラハラドキドキ」感には多少欠けるが、その分リアリティは高い。「没頭」できること請け合いである。

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