The
Economist 2008年4月19日号
ディズニー
Disney
魔法の復活
Magic restored
(2008年4月17日)
新社長の下でディズニーは見事に創造的転換を果たした――そして、相乗効果を上げている
ディズニー傘下の映像制作会社、ピクサーの最新アニメ『レミーのおいしいレストラン』では、レミーという名の才能豊かなコック――たまたまネズミ――が、かつての一流レストランの厨房にもぐりこむ。料理長は創造性に見切りをつけ、代わりに誰もが敬うこのレストランの創設者、オーガスト・グストーのブランドで即席料理をどんどん出そうと計画している。結局、料理長はレストランを取り仕切ることができなくなり、冷凍食品は捨てられ、レストランはレミーの料理に助けられてその評判と創作の才を取り戻す。
同じようなことがディズニーで起こったようだ。4年前、ディズニーは混迷状態にあり、当時の最高経営責任者(CEO)マイケル・アイズナーは、ディズニーの創造的文化を押しつぶしたと株主の非難を浴びていた。だが今は、2005年にCEOを引き継いだボブ・アイガーの下でテレビ番組と映画が次々とヒットし、すばらしい業績を挙げている。「ディズニーの創造力は大いに勢いづいており、他の大手メディア企業とは比べものにならない」とガベリ・アセット・マネジメントのファンドマネージャー、ローレンス・ハバーティは述べている。
昔は主に幼い子どもに焦点を合わせていたディズニーだが、近年は「トゥイーン」、つまり9歳から14歳の子どもたちもディズニー作品を見るようになった。2006年、米ディズニー・チャンネルはロックスターとして2重生活を送る普通の女の子を描いた連続ドラマ『ハンナ・モンタナ』の放送を開始した。また学校で別のグループに入っている2人の生徒の恋愛を扱ったテレビ映画『ハイスクール・ミュージカル』を放映した。どちらも底力のある大ヒット作となった。『ハイスクール・ミュージカル』とそのさまざまな関連商品で、ディズニーは2006年度と2007年度に合計1億ドル以上の営業利益を上げた。ディズニー・チャンネルはまもなく『キャンプ・ロック』を放映する。ディズニーのレコード会社、ハリウッド・レコードですでに100万枚以上のCDを売り上げている健康そうな男の子のバンド、ジョナス・ブラザーズを主役にしたテレビ映画である。
同時に、ディズニー傘下のテレビネットワーク・ABCも、『デスパレートな妻たち』『ロスト(Lost)』や『アグリー・ベティ』など多くのヒット番組で利益を得ている。映画事業も好調で、2005年は2億ドルしかなかった営業利益が昨年は12億ドルに伸びた。2006年に74億ドルでピクサーを買収したことも一部寄与しているが、大部分は『エンチャンテッド(邦題「魔法にかけられて」)』など実写フィルムの興行成績が良かったことが増収につながった。ディズニーは4月8日に今後4年間に10本の新作アニメ映画を公開する野心的な計画を打ち出した。
なぜ復活できたのだろうか。多くの人はアイガー氏の経営スタイルがディズニーの創造性を解き放ったのだと言う。「ディズニーの内部にすでに創造性はあったのだが、ボブがその障壁を取り除いたのだ」とライバルのメディアグループ、ニューズ・コーポレーションの最高執行責任者ピーター・チャーニンは述べている。「マイケル・アイズナーには自身の創造性がすべてだった」と、ディズニーの元取締役で2004年にアイズナー氏解任劇の立役者となったスタンレー・ゴールドは、前CEOがディズニーのテーマパークと映画の細部にまで介入したやり方について述べ、対照的に、「ボブは部下に創造的決断を下すよう促している」と語っている。
さらに、アイガー氏は独自の創造性を主張するスタジオ、ピクサーを買収することで、ディズニーの内外にメッセージを伝えた。「創造的な仕事に携わる業界で、数年前のディズニーは必ずしも働くべき場所と見なされていなかったが、今は違う。人々はここで働きたがっている」とディズニーの最高財務責任者トム・スタッグズは述べている。アイガー氏はすぐにピクサーのトップをディズニーのアニメ事業の責任者に据え、昨年は『シンデレラII夢はかなう』など往年の人気作品の安いビデオ用続編――ディズニーの冷凍食品に相当するもの――の制作を中止した。
スタッグズ氏によると、アイガー氏が就任する前のディズニーには工場のようなアニメ制作プロセスがあって、事業開発チームが案を出し、それを監督に割り当てていたという。「ピクサーは監督主導型の開発・制作方法で成功していたが、ディズニーはピクサーに主導権を持たせ、同時にその手法を採用したのだ」とスタッグズ氏は言う。新たなボスたちの下で100%開発された初の映画、『ボルト』が11月に公開される。その結果を見ればピクサーがディズニーのアニメに与えた影響が十分に証明されるだろう。確かに、アイガー氏はピクサーに高い値段を支払った。それに、モルガンスタンレーのベン・スウィンバーンが指摘するように、ピクサー作品の国内での興行収入は2003年の『ファインディング・ニモ』以来、新作公開のたびに落ちている。次作は2700年を舞台にしたロボットの冒険物語『ウォーリー』で7月に全米公開される。
ディズニーは最近一連のヒット作を出しているが、アイガー氏の功績はそれほど大きくない、とミッキーマウスクラブの元メンバーは主張している。「ディズニーでヒットした新作はすべて、マイケル・アイズナーがCEOであったときに開発されたもので、当時公開されたものも多い」とウォルト・ディズニー・テレビジョン・インターナショナルの前社長、デビッド・ハルバートは言い、「テレビとスタジオの創作サイクルは数年続く。従って、しばらく待たなければ、ボブ・アイガーの慎重かつ中央集権的で合意に基づく経営スタイルの成果はわからない」と付け加えている。これに対して、ディズニーの重役は当時すでにアイズナー氏はABCとディズニー・チャンネル、そのスポーツ放送局であるESPNをアイガー氏に任せていたではないかと反論している。
だが、アイガー氏の下でディズニーがメディアの相乗効果を働かせる技を完成させたことは確かだ。例えば『ハイスクール・ミュージカル』の映画はその後、ライブコンサートツアー、舞台、アイスショー、シリーズ本、ビデオゲームに姿を変えた。ピクサーの『カーズ』の興行収入には少々失望したかもしれないが、ディズニーはその陰で1億台以上のモデルカーを売り、テーマパークのカリフォルニア・アドベンチャーに「カーランド」というアトラクションの建設を予定している。また、関連商品の販売を促進するためにインターネット上の仮想空間も開発中である。
現在、ミッキーマウスからディズニー・フェアリーズに至るまで、ディズニーがこのような扱いをしている「フランチャイズ」が10ブランドある。数年前、あらゆるメディア・コングロマリットが相乗効果を追及したが、一貫して全社的にそれを実現したのはディズニーだけだ。もちろん、顧客の多くが子どもで、大人に比べると関連商品を受け入れやすい傾向にあることも一助となっている。
アイズナー氏は確かに積極的に相乗効果を推進したが、内部の人間は相乗効果を上げるにはアイガー氏の協調的な経営スタイルのほうが適していると言う。英国で番組販売チームがBBCに『ハイスクール・ミュージカル』を懸命に売り込んだのは、たとえ営業部の収支にはほとんど貢献しなくても、無料放送テレビで放映されることでDVD、ペンケース、その他の関連商品の売上が増えるからだった、とロンドンを拠点に活動しているディズニーの重役は述べている。また、「数年前だったら、そんなことは気にしなかっただろうが、今は何が重要な資産であるかをたたき込まれているので、誰もがそれを支持するのだ」とも言っている。
魔法の王国でもすべてが完ぺきとは限らない。今年の第1四半期はテーマパークの収入がディズニーの総収入の25%強を占めており、投資家はテーマパークに対する景気後退の影響を懸念している。昨年、ディズニーの株価が14%も下がったのは主にこのためであるが、ディズニーは米国ではライバルのテーマパークより自社のテーマパークのほうが景気減速時の立ち直りが速いと語っている。ディズニーは今でも従来型のメディアでほとんどの収入を稼いでおり、オンライン事業を拡大する必要がある。この点は同業者と変わらない。しかし、創造性にはずみがついており、ヒット作から価値を引き出す能力があることは証明済みだ。つまり、ほとんどのメディア大手に比べ、ディズニーには将来を楽観視するゆとりがあるということだ。