The
Economist 2008年4月5日号
北朝鮮と韓国
North and South Korea
ロケットマン対ブルドーザー
Rocket man v Bulldozer
(2008年4月3日 ソウル)
あからさまな侮辱と終末論的な脅迫で、かつての悪しき時代へ急速に逆戻り
わずか数週間前、ニューヨーク・フィルハーモニーが平壌公演を開催したときには、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)政権は世界に向けて笑顔を振りまこうとしているかのようだった。だが、しかめっ面が戻ってきた。報復を伴って。3月27日には、南北境界線のすぐ北側に位置する南北相互協力による工業団地からすべての韓国政府職員が追放された。その翌日には北朝鮮海軍が、旧式の艦載ミサイルを洋上に向けて発射した。今週、北朝鮮政府は、国家を存続させるためには「核抑止力」が必要であると発言し、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が「南北の対立を扇動している」としただけでなく、「逆徒」のレッテルまで貼った。南北関係はきりもみ降下を始めたようだ。
「ブルドーザー」の異名をとる保守派の李氏が韓国大統領に就任した2月以降、北朝鮮はこうしたかんしゃくを起こしてきた。李大統領は、北朝鮮があらゆる核開発計画を申告して米国を満足させることを、北朝鮮に対する経済協力の条件としてきた。北朝鮮は、これに怒っているのだ。
韓国の新聞、朝鮮日報によると、2月以降、北朝鮮のミグ戦闘機が少なくとも10回、韓国にとっての「戦術行動ライン」を越えている。これは南北境界線の20キロメートルほど北に位置し、ここからソウル上空まではわずか数分の距離である。朝鮮日報はまた、北朝鮮の機甲部隊が境界線に向けて移動しているとも報じている。
こうした軍事的挑発に対して韓国側は沈黙を守っている。韓国外相はミサイル実験を「定期的な軍事演習」であるとしている。韓国政府の中には、北朝鮮の好戦的な行動を、4月9日に行われる韓国の総選挙と関連付けて考えている者もいる。北朝鮮は、李氏の率いるハンナラ党が敗北することを期待しているのかもしれない。同時に、韓国国内において安全保障上の不安が高まることで、韓国とその同盟国である米国との間にくさびを打ち込む狙いがあるとも考えられる。こうした懸念によって李大統領が、情勢がさらに緊迫することを防ぎ、韓国の投資環境がダメージを受けないようにするために強硬姿勢を和らげるかもしれないという考え方だ。李氏は、経済の活性化を公約に掲げて当選したからだ。
李大統領に批判的な勢力は、韓国政府は北と協力する以外に選択の余地はないと信じている。とくに、離散家族の再会や、深刻な食糧難に苦しむ北朝鮮への食糧支援といった人道問題についてはそうだ。彼らによれば、李氏は、ハンナラ党の強硬派に取り込まれているという。こうした強硬派はほとんどが年長の政治家で、金大中(キム・デジュン)元大統領および廬武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領が北朝鮮に対して進めてきた「太陽政策」を冷笑してきた。10年にも及ぶ太陽政策は国家の安全保障を強化することなく、悪の隣国に対して莫大な経済支援を与えてきたと非難している。2006年の10月には、北朝鮮は核実験を成功させているではないか。
それでも韓国大統領である以上、北朝鮮との関係強化と最終的な南北統一を公言せざるを得ない。李大統領は、北朝鮮が核開発計画を放棄することを条件に巨額な経済支援と投資を約束している。
だが、それが近い将来実現することはありそうにない。北朝鮮の非核化をもたらすはずの6カ国協議はこう着したままだ。韓国政府の中に、北朝鮮が秘密のウラン濃縮活動を含めて核開発計画を正しく申告すると期待している者はほとんどいない。北朝鮮は2007年中に、こうした申告をするはずだった。4月2日ソウルで、この問題に関する米国の交渉担当者であるクリストファー・ヒル国務次官補は、進展がみられないことを「非常に懸念している」と語った。
米朝国交正常化が実現する可能性はますます低くなってきている。ブッシュ政権が、北朝鮮をテロ支援国家リストから除外する可能性もまた同様に低い。金正日の側としては、米国の次期大統領と交渉できるようになるまで時間稼ぎをしているかのようだ。
南北関係が悪化するのと同様に、韓国企業による北への投資の期待も同様に悪化している。こうした投資が北朝鮮を開放に向かわせ、政治的変革を促すとする、楽観的な見方もあった。だが例えば、北朝鮮での造船所建設を検討していた韓国の造船各社は、そうした計画を撤回している。
当面、韓国では、境界線付近の緊張が高まると予想している者が多い。北朝鮮は、非武装地帯および、北がもっと南に移動させるように求めている海上の「北方限界線」付近で、さらに挑発的な軍事演習を行うとみられている。韓国政府の一部には、海上での衝突を予想する者もいる。李大統領のアドバイザーも務める、ある悲観的な北朝鮮専門家は、北朝鮮は核開発計画を再開させ、おそらく年内にも核実験を行うと予想している。仮に、この専門家の予想が間違いだとしても、半島情勢は「非常に厳しい時」を迎えようとしているという彼の見方に異を唱える者はいないだろう。