The Economist 2008年8月16日号 (Leaders)
グルジア戦争 The war in Georgia
復活したロシア Russia resurgent
(2008年8月14日)
グルジア戦争ではロシアが勝った。西側の選択肢は限られているが、それを断固として追求する必要がある
8月7日の夜、グルジアのミハイル・サーカシビリ大統領は、離脱を主張する2つの自治地域の1つ、南オセチア自治州に対する無分別な攻撃に乗り出した。これに対してロシアの戦車、部隊、航空機が国境を越えてなだれ込んだ。グルジア国軍を粉砕した五日後に、ロシアは軍事行動を終結すると発表した。
この容赦なき効率的な行動は、ロシアの大統領から首相に変わったばかりのウラジーミル・プーチンにとって勝利だった。単にグルジアに対してだけでなく、ロシアの西部国境沿いにある国々を取り込み、民主化して市場志向にし、友好国としようとしている西側に対しても勝利したといえる。今やロシアが、距離を置こうとしている国家がどうなるかを示したことで、将来そうした行動をとることは難しくなるだろう。
熊(ロシア)の隣に住んで
ロシアは侵略行為に対して形ばかりの正当化を試みた。自国民を守ろうとしたのだと主張した。この弁明にスウェーデンの外相は辛らつにも、「ヒトラーのナチ侵略正当化を想起させた」と語った。ともあれ、この侵略の準備のためと思われるが、南オセチアとアブハジアに住む「ロシア市民」の大半はつい最近、ロシアのパスポートを交付されている。
同様にロシアは今回の軍事行動を、1999年にNATO(北大西洋条約機構)がセルビアを爆撃[訳注:コソボ問題の和平交渉をセルビアが拒否したことから全土に制裁爆撃が行われた]してコソボの独立を助長しようとしたことや、米国主導のイラクへの侵略と類比しようとしているが、この言い訳は通用しない。南オセチアでの最新の戦闘は、グルジアによってその火ぶたが切られたかもしれないが、原因の大部分は、長年にわたり紛争の火種を煽り続けてきたロシア側の工作にある。イラク戦争との類比については、ロシア人ですらサーカシビリ氏が近隣諸国や世界への脅威となってきたなどとは主張しないだろう。
これは挑発行為への突然の反応ではなく、長期間練り上げられた末の行動だった。プーチン氏はグルジアやウクライナなど旧ソ連諸国への西側の影響力を毛嫌いしており、気まぐれなサーカシビリ氏を非常に嫌っている。彼はまだサーカシビリ氏を政権の座から追い出してはいない(確かにこれまでのところ、一般のグルジア人は大統領を支援すべく結集している)かもしれない。だがカフカス地方にロシアの軍事的なこぶしを叩き付けることによって、ロシアはNATO加盟の試みも含め、近隣諸国が度を超えて独立しようとする動きを許さないことを明確に示した。
この新たなロシア帝国主義は、近隣諸国すべてにとって悪い知らせだ。サーカシビリ氏は、最近では民主的な信用を色あせさせている激しい国家主義者である。南オセチアへの彼の危険な行動は愚かであったし、犯罪的な色合いもある。だがプーチン氏と違って彼は、概して国家を民主的な方向に引っ張ってきたし、汚職を抑制し、ロシアのようにほとんど石油やガスの高値によるものでない急速な経済成長の指揮を取ってきた。米国のジョージ・ブッシュ大統領が多少遅れはしたが8月11日に、「21世紀になってロシアが近隣の主権国家を侵略し、民主的に選ばれた政府を脅すことは許されない」と宣言したことは正しかった。
だが、グルジアやその他の国にとっての厳しい現実は、ロシアとのいかなる対峙に関する西側への軍事的支援の願いは聞きいれられないだろうということだ。米国はサーカシビリ氏に、イラクからグルジア軍を母国まで輸送した時に形ばかりの支援を与えた(2,000人の同国軍は友好国の派兵としては3番目に大きいものだった)。そして今、人道的な支援物資を軍用機や艦船を使って運び込んだ。だが誰も、ロシアが主張する「隣接地域」をめぐってロシアとより広範な戦争の危険を冒そうとはしない。ロシアと国境を接する隣国の中でそのような保護を求める権利があるのは、ロシアが弱体化していた1990年代にNATOに加盟したバルト諸国だけである。
このことは、グルジアへのロシアの侵略行為に対して西側は何もすべきでないということではない。それとは逆に西側は、国際的なイメージに対して特別に敏感なロシアへの影響力をまだ持っている。だからこそ西側の指導者たちは、グルジアへの侵略と爆撃の継続についての怒りを極めて鮮明に表明しなければならないのだ。これまでのところ数カ国しか表明していない。特にイタリアとドイツは恥ずかしいほど沈黙している。
何よりも西側はプーチン氏に対して明らかにしなければならない――たとえばイランのような課題に関しては協力するとしても、ロシアがグルジアを侵略したことは、西側との通常の付き合いの終結を意味するということを。米国はすでにロシアとの共同軍事演習をいくつか取りやめた。米国と欧州諸国は、ロシアをこれ以上、国際機関――パリに本拠地を置くOECD(経済協力関係機構)やWTO(世界貿易機構)のような――に参加させないことを確実にすべきである。今や先進国は、ロシアを包含するG8を犠牲にしてでも、ロシアを除外するG7の関係強化を図るべき時だ。
ロシアに関してしばしば宥和派と強硬派とに意見が割れる欧州連合(EU)は、同国との新たな提携関係や協力協定に関する交渉をしてはならない。ビザ制限は強化されるべきだし、ロシアの最高権力者たちの海外個人資産はもっと丹念に調査されるべきだ。EUはロシアのエネルギー資源への依存を減らすように努力すべきだし、域内のエネルギー関係をもっと強化すべきだ――またEU各国はロシアと2国間協定を結ぶことを止めるべきだ。
NATOに加盟させよ
こうした措置はいずれも短期的にみれば、ロシアがカフカスへの影響力を再び行使したいと思う場合、それを阻止することにはならないだろう。だが共同でこうした措置を取ることで、プーチン氏に同様の行動を他の場所――例えば何千人ものロシア人の生まれ故郷であり、ロシアの黒海艦隊の基地でもあるウクライナの一部のクリミア地方――で起こすことを、しばし再考させるかもしれない。西側の不快感が明確であればあるほど、1990年代の初めからアブハジアと南オセチアへ平和維持軍として駐留しているロシア軍の代わりに他国の平和維持軍や監視団を入れる可能性が高まる。ロシア軍は今や占領軍であることが明白になった以上、そこから退去する必要がある。
最も重要なことは、サーカシビリ氏の愚かさがグルジアの加盟を難しくしているものの、今回のロシアの侵攻によってグルジアとウクライナのNATO加盟計画を遅らせないことである。ロシアの侵略はこれまで以上に、これらの国々やその他の国にNATO加盟を重要視させるだろう。この戦争の最悪の結末は、西側がロシアに拒否権を与えてしまうことだ――いかなる国であれ主権国家がNATOまたはEUに加盟する場合の拒否権を。